「緊急財政対策にかかる事務事業見直し検討結果に対する意見」を提出しました。
緊急財政対策にかかる事務事業見直し検討結果に対する意見――区財政危機は偽り、住民の福祉増進とくらしを守ることこそ緊急課題――
2011年8月29日
日本共産党目黒区議団
「目黒ショック」と呼ばれる目黒区財政危機キャンペーンが区民の間に浸透した結果、「目黒区は赤字なのか」「夕張のようになるのではないか」という声が多く聞かれるようになった。しかし、目黒区財政の現状は、30年以上黒字であり、今後も実質収支が赤字になるという収支見込みはない。総務省の健全化判断比率からも、極めて健全という状況である。また、23区の財政力は全国的にトップ集団であり、目黒区が「赤字に転落する」「夕張になる」というようなことはほとんどありえない。
偽りの財政危機を口実に、区民犠牲の180億円削減を強行することは、まさに自治体の役割を変質させるものである。区民の暮らしと福祉を守り抜く自治体の原点に立ち返り、虚構の財政危機論に基づく180億円削減案は撤回すべきである。
その上で、本格的な住民自治に向けた区民参加を得て、目黒区基本構想に基づく将来ビジョンを作り上げる中で、財政問題を位置づけることを提案する。
以上の立場から、緊急財政対策にかかる事務事業見直し検討結果に対するいくつかの具体的問題点を指摘するとともに、積極的な提言をする。
1.区財政は健全である
2010年度決算に基づく健全化判断比率の算定結果によると、目黒区財政は、一般会計と用地会計は黒字、国保、後期医療、介護などの各特別会計まで広げて算定すると黒字幅がもっと増えた。実質的な公債費(借金返済額)及び、地方債残高と退職手当の負担などの将来負担の指標は、いずれも前の年より健全さを増した。総務省の健全化判断比率の算定結果は、「目黒区財政は健全である」ことを証明した。
9月補正1号予算によると、2011年度末の積立基金(貯金)は、当初予算の126億円から134億円に増額される。
黒字で貯金があり借金も大丈夫、どのような判断指標から見ても目黒区財政は健全であり、財政危機の根拠は全くない。
2.一般財源収支だけの虚構の「財政危機」
目黒区は、財政危機の根拠として、23区比較における経常収支比率と基金の問題をあげている。
経常収支比率については、今後も高くなるとしているが、人件費は、50代の構成比が高く、退職することで自動的に減少する。公債費は、急速に減少している。また、扶助費も多くはない。
20年度から21年度にかけて経常収支比率がはねあがったのは、バブルがはじけた後の減収が大きかったからであり、24年度には約40億円の臨時的収入の影響はなくなり安定する。
目黒区の実質収支(黒字か赤字かの指標)は、収入では特別財源や特別区債を含めたものであるし、支出では、普通建設事業費(投資的経費)を含むものである。実施計画の投資的経費を減少させれば経常収支比率は高くなる。一方、学校改築や特養ホーム、保育園の建設など生活密着型の普通建設事業を計画的に進めれば、経常収支比率は下がる。よって、経常収支比率の高低は、財政危機とは無関係である。
目黒区は、支出は身の丈に合ったものでなければならない、という。身の丈とは、収入のことを言っているのだが、区が取上げているのは、区税と特別区交付金中心の一般財源である。しかし、自治体財源は、一般財源だけでなく、国や都の補助金など特別財源や起債も住民福祉の増進には不可欠な財源である。これら全体の目黒区の収支は、1で述べた通り健全な黒字である。
また、区財政が健全な上に、目黒区には23年度末134億円の基金がある。これだけの貯金がある自治体に財政危機はありえない。
3.偽の財政危機キャンペーンを利用した開発財源の捻出は許されない
都心部での再開発地は底をつき、渋谷区では再再開発もすすめられている中、中目黒駅には副都心線が乗り入れ、横浜から和光が直通となる。目黒区は、開発地を求める大企業の注目を集めている。
一方で、目黒区は、偽の財政危機キャンペーンを行い、JR跡地を売却しようとしているが、区民の財産を大企業に提供することは止めるべきである。
区民と区長ともまちづくり懇談会で、区長は、再開発には、「区民の税金は1円も使われていない」と答弁していたが、充当されている財調交付金は、区民の税金である。 また、区道などの周辺整備には区税が使われてきた。さらに、中目黒GTでは図書館が移設され、中目黒アトラスでは保育園の整備に保留床を買収するなど多額の区費が使われてきた。しかも、財調交付金の満額補助は、再開発補助金は、港区のような不交付区ではゼロだし、渋谷区のように交付されても1000万円程度では再開発への財調交付金はほとんど出ない。目黒区では、交付額が5番目に少ないので満額補助は微妙であり、この点区からはいまだに納得のいく説明はない。
いま、中目黒駅北側、目黒駅、西小山駅の周辺で巨大開発の動きがある。偽の財政危機キャンペーンによってこうした開発の財源を捻出することは許されない。
4.目黒区民の財産と権利を奪うことはできない
「財政健全化」なるものが、区民生活を守ることが目的でないことは確かである。実際に、経営安定資金特別融資及び小口零細企業資金融資の信用保証料補助の廃止や利子補給率の見直しなど「暮らしサポート」21から23までの立場と逆行し、区立第4特養ホームの建設、東山小学校の改築など切実な実態や防災上からも緊急な課題を延期するという区政の反区民的な政策転換そのものである。
現在の目黒区の区民施策は、暮らし、子育て、障害者福祉、社会教育、男女共同参画など各分野にわたる区民の長年の運動に寄り添って区が作り上げてきた質の高いサービスである。これらを守ることが行政の役割である。ところが、これらを、今度の事務事業見直しによって、23区平均またはそれ以下に切捨てようとしているが絶対に許されない。
5.住民自治に向けた住民参加を推進し区民の立場から財政計画を策定せよ
今回の180億円の事務事業見直しは、区民参加の機会を与えない進め方であり、区民不在である。住民自治に向けた住民参加システムを構築するという基本構想の理念とは正反対である。
8月15日に区報にて発表し、お盆を挟んだ8月29日に区民意見を締め切ったのち、議会報告もなく、9月5日の緊急財政対策本部で決定するというのは、区民意見も議会意見も真剣に反映する姿勢ではない。
区長懇談会を開いたが、区民への説明責任を十分果たしていないことも重大な問題である。例えば、図書館利用者懇談会については時間がないからやらないと区民からの開催要求を断った。
また、区長が自ら決定した「目黒区パブリックコメント要綱」違反である。その理由は、区立第4特養ホームの整備、東山小改築など重要な実施計画事業の改定である。図書館運営や男女共同参画センター運営の縮小など事業活動に広く影響を及ぼす重要な方針の改定である。箱根保養所の廃止など条例の廃止に向けた基本的な考え方の策定にあたる、などである。パブリックコメント要綱に該当するにもかかわらず、区は、必要ないと強弁している。
住民自治に向けた住民参加を推進し、区民の立場から財政計画を策定すべきである。
6.中長期的な区政の将来ビジョンを持つことを提言する
いま、区政に求められているのは、区民の暮らしや福祉を守ることを最優先にすることである。そのために景気動向とともに区民生活の実態把握をしっかりやっていく必要がある。
今年度下期の景気動向は、円高などの不安要素はあるものの、下期には7割の企業が利益の改善を見込み、東日本大震災後の状況からは脱しつつある。区の中小企業の景況分析でも、大震災の影響で今年4~6月は悪化したものの、今後の業況は上向くことを予想している。
一方、区民生活や区内中小企業、若者を中心とする雇用状況は依然、厳しさが続いている。東京都は9月に税収の見通しを立てる予定で、他区も今後の財政見通しを含め、これから検討していくことになる。目黒区でも拙速な財政判断を避け、区民生活と経済状況や税収の行方を見極めながら冷静な判断をすべきである。
区民生活や生業を支えることは自治体の第1の仕事であり、福祉や防災を前面に打ち出した区政を推進することが求められている。
100を超す区有施設の改築改修には、10年間に500億円ちかい財源が必要だと区は試算している。これらを実施するための施設改築改修整備計画を区内の中小業者の意見も聴き、知恵と経験を生かし、仕事確保を進める上からも、長期的な区有施設の改築改修計画を策定することを提言する。他区の例も参考にしながら国や都の補助金や特別区債発行など財源内訳を含めた財政計画も合わせて策定すること。
福祉と防災の施設改築改修整備計画を策定する際に、合わせて、雇用創出計画、介護をはじめとする高齢者福祉、子育て支援、障害者福祉計画などのビジョンをタイアップさせることで、実体経済を活性化させ、安定的な将来の区税収入も見込めることになる。
施設改築改修整備計画については区内業者の参画を得て立案し、福祉と防災のまち目黒の将来ビジョンづくりには、より多くの区民・団体の参画を得て、地域循環型経済を位置づけることを提言する。
7.大企業、国や都などへの財源確保に向けた取り組みも位置づけること
大橋ジャンクション屋上公園等の経費は、整備費及び完成後の維持管理経費の全額を首都高㈱に要求すること。40年分の維持管理経費13億円が首都高㈱から出される一方、目黒区は、屋上公園の整備費13億円を負担することになった。しかし、この整備費は、全額首都高㈱が負担すべきものである。さらに、首都高㈱が設置すべき屋上に上がるエレベータの設置経費のうち、ガラスにして防犯対策をする分と高齢者などが利用する際に衝撃を防止するためのグレードアップ分などを区が肩代わりする上、エレベータの維持管理経費を目黒区が持つというのは、まさに大企業への思いやり予算と言わざるを得ない。これらは首都高㈱が出すべき経費であり、全額要求すること。
道路占用料の改定については、目黒区独自の改定方針を検討するとしているが、目黒区の地価を反映したものに改定することや、大企業である東電やNTTの電柱の占用料よりも電柱に付けた広告看板の上がりの方が大きいことなどを考慮した占用料を徴収することなど、抜本的改定を行うこと。
9月定例会の区税条例の改正内容には、株のもうけに対する課税を20%から10%へ2年延長が含まれている。これによって区税収入が6億円も減ることが明らかにされた。株の売買を活発にすることに巨額な税金を使うよりも、家計や生業を支援する方がよっぽど景気対策になる。大企業減税や株式譲渡所得にかかる大資産家優遇の減税については、景気のよい時には、14億円にもなる区税収入への減収を招く。これらの不公平税制を直ちに廃止するよう国に要求すること。
JR跡地については、区民共通の財産であり、絶対に売却しないこと。JR跡地は、福祉系住宅を建設する目的で購入した土地である。住宅は福祉である、という立場から見ると、福祉目的で購入した土地であることは明らかである。当初の購入目的に立ち返り、区民の切実な要望となっている特別養護老人ホーム、保育園、高齢者福祉住宅、防災公園の建設を進めること。その際、半分の土地を有する東京都に対して都有地を無償もしくは安く貸すよう求めること。
都市計画交付金の増額および財調の配分率(現行55%)を増え続ける23区の仕事の実態に即して増やすよう都に要求すること。都市計画交付金については、その対象事業に生活密着型施設の整備に幅広く使えるようにさらに改善するとともに、23区の仕事量に見合った形で大幅に増額するよう要求すること。また、財政調整交付金については、中学3年生までの医療費無料化、ごみの分別回収の一層の推進など23区の仕事量の増大に見合った配分率への改定を都に要求すること。
国保にかかわる補助率引き上げや各種ワクチンに対する補助金など国や都の補助金を拡充するよう求めること。
8.各分野に係る意見
区長は、子ども、高齢者、障害者を対象から外したと言いながら、実際には、いのちに関るもの以外は、縮小や廃止はやむを得ないとしていることは許されない。
「暮らしサポート」の立場に逆行し、区立第4特養ホームの建設、東山小学校の改築など切実な実態や防災上からも緊急な課題を延期するという区政の反区民的な政策転換である。
以下、具体的な意見を述べる。
①区有地の売却は拙速を避け、中長期の施設改築改修計画の策定の中で、判断すること。上目黒福祉工房跡地の売却、大橋図書館移転後跡地の売却、箱根保養所の廃止(2011年度末)と早期売却などを止めること。
②第四特別養護老人ホーム整備の3年延期を直ちに撤回し、1000名の待機者解消計画を立てること。
③介護保険事業計画と地域福祉計画の改定の中で、区民施策が拡充されるようにすること。木造の老人いこいの家の廃止(4カ所)、母子支援施設・氷川荘の廃止、紙おむつ支給・経費削減・自己負担導入、高齢者配食サービスの補助の縮小、前立腺がん検診の休止・胃がん検診の対象年齢引き上げ、などを撤回すること。医師の指導で参加している人もいる水中ウォーキング事業を廃止させないこと。介護保険住宅改修制度におけるアドバイザー制度を廃止しないこと。
④障害者の社会参加や文化的要求を実現するための更生事業の廃止やリフト付き福祉小型バス貸し出しを廃止させないこと。
⑤子育て支援に逆行することは行わないこと。私立幼稚園協会補助10%削減、保育園・学童保育料値上げ(2013年)、保育園・児童館・学童保育の民営化。中堅ファミリー世帯への住み替え家賃助成を廃止しないこと、など。
⑥住宅政策を後退させないこと。借り上げ型の高齢者福祉住宅確保の中止、高齢者住み替え家賃助成の廃止など。
⑦施設使用料値上げは行わないこと。
⑧社会教育行政の水準を後退させないこと。図書館開館時間の短縮と職員削減・委託の拡大、社会教育事業の職員削減とともに講座の縮小、地区プール週1回休館。開館時間の見直しなど。
⑨住区のあり方の検討抜きに無原則的なやり方はすすめないこと。利用率の低い住区会議室利用用途変更。老朽施設は複合化の検討など。
⑩区民センターの耐震化を早期に実現すること。また、東山小学校など老朽化の著しい施設の改築をすすめること。
⑪区有施設の寿命を短命化させる場当たり的な修繕費の削減はやめること。学校の計画修繕など経費10%削減など。
⑫暮らしサポートに逆行することはしないこと。小口零細企業資金融資の信用保証料補助の廃止など。
⑬団体補助金の10%削減などを撤回すること。
⑭3つの駅前再開発などの見直しは聖域にされているが、再開発中止の指示をだすこと。
⑮学校の統廃合はやめること。学力テストを止め、学校運営費を増額すること。校庭の人工芝化は、延期ではなく中止すること。30人学級を一刻も早く実施すること。小1支援員の縮小を止めること。
⑯大震災での公務員の役割を改めて重視し、職員削減計画を撤回すること。また、美術館の学芸員、保育園の調理師など少数専門職や現業職の退職不補充をやめること。
⑰収納対策については、区民生活の実態を把握しない差押えなどは止めること。
⑱平和祈念事業としての小中学生の広島派遣人数を減らさないこと。
⑲男女共同参画センターの運営の縮小は行わないこと。
⑳箱根保養所の廃止、民間保養所の利用助成の廃止、国保の通年保養所補助の廃止は行わないこと。
以上